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知って楽しむ「白鳥の湖」
律先生が「白鳥の湖」を語ります!
―バレエ教室の先生にとって、「白鳥の湖」とは?
生徒には、一度は観せておきたいし、観やすい演目ですよね。3大バレエといえば、「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」そして「白鳥の湖」でしょ。
―ボリショイ劇場の依頼で、チャイコフスキーが初めて手掛けたバレエ音楽が「白鳥の湖」。1877年の初演では人気がいまいちで、お蔵入りになった過去がありますね。
お蔵入りした後、プティパと弟子のイワノフの振り付けで、「白鳥の湖」は世界的な人気作になったんだよ。プティパは、つまらない部分を全部カットしちゃったんだよね。
―プティパ、大胆ですね!
プティパって、偉大でね。3大バレエの振付、全部やってますからね。私が昔、スウェーデンに行ったとき、川が凍っていたんだけど、そこにいた白鳥の動きがまさに、「白鳥の湖」に出てくる白鳥でした。寒くて首を縮めていたかと思えば、羽を大きく伸ばしてさ。「白鳥の湖」は極寒のロシアで作られたわけでしょ。プティパは、白鳥の動きをよく観察していたんでしょうね。
―なるほど。ロシアという環境が名作「白鳥の湖」を生み出したんですね。
プティパはフランスで生まれて、ダンサーをしていたのだけれど、ロシアに行ってから振付家としての才能が花開いたんだよね。バレエもイタリアで生まれて、フランスで育ち、ロシアで成熟したって言われているけど、こういう部分、追っていくと興味深いですね。
王子!鳥違いに、ご注意を!
―「白鳥の湖」では、白鳥・オデットと、黒鳥・オディールという正反対の役を、同じバレリーナが踊ることで有名です。
芸術的美しさと可憐さを持ち合わせた白鳥・オデットと、強靭な身体とスタイルで色物ともとれる黒鳥・オディール。善と悪であったり、気質であったり比べやすいし、同一人物がやるのが正しいことなんでしょう。違う人が白鳥と黒鳥を演じるバージョンもありますけど、同じ人が演じないと王子だって簡単に騙されないですね(笑)
―映画「ブラックスワン」でも、「白鳥の湖」でオデットとオディールを演じるバレリーナの葛藤が描かれていましたね。
踊っているうちに、追い込まれてしまうことってあると思います。表現という行為の凄さのひとつですよね。
すべての振り付けに、意味がある
―ハッピーエンドか、悲劇か?作品の結末が違うのも、「白鳥の湖」の魅力ですよね。
バレエの解釈もいろいろで、上演される時代に左右されるのも面白いよね。「白鳥の湖」も、昔の帝政ロシアの時代と、レーニンからスターリンの時代で、結末が違ってくる。みんな亡くなってしまうのもあるし、昇天してから結ばれるパターンもあるし。
―色々な人がバレエ作品の解釈を変えて、振り付けを考え、それが今に伝わっているんですね。
そうなんだよね。昔は、著作権という考え方なんてなくて、自由だった。金払えなんて人、いなかったからね。チャイコフスキーも、亡くなった後に変更されても文句言えないしね。そういう時代背景が見えてくると面白い。さらに言うと、バレエの振付って、音楽と共に始まって、音楽で終わる。絶対に起承転結。だから、絶対に音楽を無視しちゃいけない。
―振り付けは奥が深いんですね。
クラシックバレエって、所作ひとつにしてもキャラクターがあってこそだしね、全部。ロシアは特にスタイルが厳格。だから、振り付けに、絶対意味があるんです。
バレエを見ながら、旅をしよう
―バレエの演目の中には、ディヴェルティスマンといって、ストーリーとは関係なく、各国の踊りを披露するシーンが登場します。どういった意味があるのでしょう?
ディヴェルティスマンがどうしてあるかって、ロシアは寒し、当時行くところがないから、「劇場でも行っていいもん観るべ」って。今みたいに娯楽がない時代だから。「白鳥の湖」にも、スペインやナポリなど、各国の踊りがでてきます。今のように交通機関が発達していない時代でしょ。ディズニーランドもないし(笑)。自国にいながら、さまざまな国の踊りを見ることは、贅沢で楽しいことだったのでしょうね。