「芝浜」や「時そば」といった名作をはじめ、江戸時代から語り継がれてきた古典落語。一方、大正時代以降に作られた作品は新作落語と呼ばれます。落語家自身が作ることが多いので、それぞれの個性が光るのも特徴です。瀧川鯉八さんは、新作落語の天才と注目を浴び2020年5月に真打に昇進。襲名披露公演は、すべて完売御礼の人気ぶり!独特な世界観は、「じわじわ、病みつきになる!」と、ハマる人が続出中です!
真打になっても、ヘンテコな落語を
―鯉八さんと言えば、ご自身で作った新作落語だけを披露されていますね。
皆がやっているものを、やりたくなくなったっていうか…。自分だけの、武器が欲しかったんです。新作落語は主演、脚本、演出、監督、全部が自分。笑いがおきたら、全て僕の手柄です。
―カッコイイですね!
永遠の命があるとすれば、古典落語の伝統的な技術を身につけて、それを存分に披露する落語家になりたい。でも、誰しも命に終わりが来ると気づいた時、自分で作った落語で世の中に出たいと思いました。僕の世界観を、古典落語の修業で培った技術を惜しみなく使って表現していきたいです。
―落語をイチから作るのは大変なのでは?
最初は、好きな小説の作風を真似して作っていましたが、全然ウケなくて(笑)。自分に無いものを追い求めてもダメだと気が付きました。それからは、ひたすら自分と向き合う作業です。
―地道な作業ですね。
自分が面白いと思う笑いを追求していくうちに、今の作風に落ち着きました。人前では言えないような気持ちや、隠しておきたい気持ちを表現するのが好きなんです。大人になると、人に話さないようなことってあるでしょ?
―例えば?
友だちに「あっ、髪切った?」と聞かれる時、ちょっと恥ずかしくないですか?僕は、切りたてを指摘されるのが恥ずかしいんです。なので、「いつ切った?」って聞かれても、「一週間前だよ」と、返すときがあって。
―分かります(笑)。
背中がむずがゆい…みたいな。そういうモヤモヤした気持ちを、明るくポップに包んで、落語にしたいと常に思っています。
師匠の落語を聞いて、即入門!?
―鯉八さんが落語家になるきっかけは?
20代前半の頃、友だちが昇太師匠のファンで、一緒に落語会を観に行ったんです。そこに、うちの師匠・瀧川鯉昇も出演していました。この時、師匠の落語を聞いて、あまりの面白さに席から立ち上がれないくらいのショックを受けまして…。大学時代は落語研究会に入っていたので、初めて落語に触れたわけではなかったのですが、雷に打たれて動けないような衝撃(笑)。その足で師匠に入門のお願いに行きました。
―凄い行動力ですね!
普段の僕は行動力があるタイプではないんです。でも、その時の師匠は、僕にそうさせてしまうほど魅力的で、素敵でした。師匠は50代だったかな。年を重ねて、こんなに面白い人がいるんだという驚きもありました。
落語は一生の趣味になる!
―初心者も、落語を楽しめますか?
落語は伝統芸能というイメージがあるかもしれませんが、もともとは大衆芸能。テレビや映画、小説を読むのと同じ感覚で、気楽に来ていただければ大丈夫です。若い人には、落語は一生の趣味になるって事を伝えたいですね。
―“一生の趣味”っていいですね。
一度落語を好きになると、その先には芳醇な世界が広がっているんです。僕自身、20歳で落語に出合い、年を重ねるほど、落語を聞く深みにはまっています。
―江戸時代から語り継がれている話もありますしね。
何百年の風雪にも耐えて残っているだけあって、落語は引き出しの数が多いんです。古典落語には、人間の嫌な部分を描きながらも「くよくよしなくて、いいんだよ!」という前向きなメッセージが入っています。逆に、新作落語は、今を生きている我々と同じ感覚で作られているので、初めての人も取っ付きやすいかもしれないですね。
―ぜひ、生で聴いて欲しいですね。
はい、ぜひ生で!今は便利な時代なので、家にネット環境があれば、いろんなエンターテインメントを楽しめます。そんな中、落語会に足を運んで、お金を使うのは、不便な事だと思うんです。でも、逆に会場へ足を運んで、皆と一緒に観ることが贅沢だと思いませんか。お客様がウケて笑ってくれると、落語家もノッて良いパフォーマンスをする。更にお客様がウケるという、会場ならではの相乗効果を体験していただくと、もう落語に病みつきですよ。