レポート
【FORUM PRESSレポーター】「第88回かすがい芸術劇場 人形劇団むすび座『父と暮せば』」
「FORUM PRESSレポーター」による「わたしレポート」。
市民ボランティアが、かすがい市民文化財団のアレコレを紹介します。
今回は、2018年8月10日(金)に開催された、
【第88回かすがい芸術劇場「人形劇団むすび座『父と暮せば』」】を、7人がレポート!
FORUM PRESSvol.88にもレポートを掲載しています。Report310はコチラからPDFでお読みいただけます。
Report312【8月の恒例行事として、子にも孫にも伝えていきたい人形劇鑑賞】
中林由紀江
お盆前の汗ばむ夜に、井上ひさし作の戯曲「父と暮せば」の人形劇を観に行きました。名古屋の老舗人形劇団むすび座の公演です。モノである人形に魂が吹き込まれたような生き生きとした動き、心地良いリズムを刻む広島弁の言葉。終戦まぎわの広島に自分が実際いるような気持ちでした。原爆投下時の人々の生々しい苦悩や葛藤が目に浮かび、いつしか周りの観客と一緒に涙を流す自分がいました。「この作品を大切に育てて届けて行きたい」という気持ちで7年公演を続けておられるそうです。終戦記念日のある8月のこの時期に観賞できて良かった。毎年この時期に見続けたい作品です。子供にも孫にも見せてあげたいので、ずうっと続けていってほしい。公演後、観客に演者の方が人形を触らせてくださり、丁寧に説明してくださる真摯な姿勢をみて明日から頑張ろうと思い、背筋がピンとして元気をもらった夜でした。
Report313【この夏に考える、原爆と親子の絆】 山田真穂
広島の原爆投下日の少し後に行われた今回の公演。会場に入るとセミの鳴き声が響いていました。被爆がきっかけで自分の心を閉じてしまった美津江。幽霊となった父との広島弁での日常会話をユーモアのある笑いを交えながらには笑いが交ざるものの、「生き残っていることが不自然」「私は幸せになってはいけない」と苦しみながら生きる様子を見て、美津江の辛さが伝わってきました。
最後の父との原爆時の死別のシーンでは、会場全体がしんみりした雰囲気に包まれました。ハンカチを押さえながら涙を流す人や鼻をすする音。私も目に涙を浮かべずにはいられませんでした。また、人形を操る出演者の渾身の演技にも心を打たれました。原爆の経験がない私でも、太陽2個分の温度というセリフ、お地蔵さんの焼け焦げた顔などから当時の様子を想像できました。父を置き去りに逃げたことをずっと引きずっている美津江に対し、自分の分まで堂々と前を向いて生きてくれという父の強いメッセージが心に残った真夏の日の夜でした。
Report314【いのちをつたえる物語】 こじまみつこ
蝉しぐれが止むと、突然の雷鳴。そして父と娘の物語は始まります。原爆によって亡くなり、幽霊となって現れた父親。父親を助けられなかったことを悔い、幸せへの心を閉じた娘。
父親と娘、2人の思いを2人の人形遣いと2人の話し手が演じます。
2人で人形を操ったり、言葉のみで演じたり。4人の変幻自在の動きに、話し手に視線が行き過ぎて慌てて人形を見たり、反対に人形に集中しすぎて、話し手の言葉を聞き逃したり。身を乗り出すようにして4人の動きと言葉を追いました。広島弁で繰り出す言葉は、柔らかく身に染みわたる。父と娘の思いがにじみます。
表情のない人形は、怒り・悲しみ・喜びの言葉によって生き生きと動き、様々な表情をみせてくれます。小さな笠をかぶせた裸電球や手作りで作られた小道具は、自分が小さい頃の暮らしを思い出させます。
井上ひさしの戯曲と人形劇団むすび座の人形たち・話し手たちによる「今を生きることの大切さ」を教えてくれる物語でした。
Report315【過ぎたことにしてはいけないお芝居がここにある!】
マエジマキョウコ
「おとったん、ありがとありました」
『父と暮せば』のラストシーン。「原爆で、『死ぬのがあたりまえ』のなかで生き残った罪悪感」をやっとふっきった娘・美津江が、やわらかい広島弁で、成仏して消えていった父・竹造に頭をさげます。その姿が平成の平和に慣れきった私の心に深く突き刺さりました。
原爆投下から3年。広島弁でつむがれる父娘のやりとりはあたたかく、通じきれない思いはもどかしく、その情に共感することしきり。親子というのはここまで互いを思いやれるものなのかと感じ入りました。
人形劇団むすび座のお芝居は、人形劇ならではの宙に浮いたり突然現れたりという演出もさることながら、4人の俳優が人形を操り、セリフを朗読し、かと思えば全員で会話をぶつけ合う……。意表をついた演出に圧倒されました。
このお芝居を見て「あなたはなぜ生きているの」この言葉を胸に刻みつけて生きてゆかねばと思わされました。
心に残るお芝居でした。ほんとうに「ありがとありました」。
Report316【大人も感動!人形劇】 紀瑠美
人形劇団むすび座の「父と暮せば」は、見本のないところから劇団員の創意工夫で創り上げ、7年にわたる再演を重ね、大切に育てられてきました。無駄のない成熟した舞台は、緊張感を高めたかと思うと、絶妙なタイミングでコミカルなシーンを織り交ぜ、観客の涙と笑いを誘いながら展開していきました。
人形劇「父と暮せば」は一般的な「人形劇」とは異なり、人間は「黒子」にはなりません。人形の遣い手、セリフ担当、役者と、その役割を変化させながら舞台上に存在します。人形劇に朗読劇と演劇を重ね合わせたようでした。3体の人形と4人の役者は、融合したり、離れたり、入れ替わったりしながら自在に物語を紡いでいきます。人形の動きは生きているようでした。場所は、ヒロイン・美津江の家の居間。わずかな時間の暗転で戦争中の舞台セットへの変化も見事でした。
公演後は、人形や舞台セットを見学する時間があり、たくさんの観客が熱心に写真を撮ったり、質問したりしていました。
Report317【井上ひさしの世界観が人形劇で!】 阪井真佐子
あの井上ひさしの戯曲『父と暮せば』が人形劇になりました。もともと二人芝居の戯曲、しかも背景の変化もないひたすら内容で勝負しなければならない舞台を、人形劇団むすび座は一体どんな味付けをし肉付けして私たち観客の心を魅了してくれるのか、そこが一番の楽しみでした。人形は二体。共に表情がありません。ところが、四人の俳優が、その二体に見事に命を吹き込んだのです。まるで文楽の人形遣いにも似た人形の操り方。美津江がお茶を載せてお盆で運ぶ仕種や包丁で野菜を切るシーンなどは、俳優が人形に乗り移ったかのように自然でした。人形に表情がない分、それをセリフで俳優が人形の表情を私たちに伝えてくれるのです。一つ一つのセリフの長さも、四人で演じ分けることで新鮮となり、人形劇だからこそできる醍醐味も味わえました。井上ひさしが後世に伝えたいメッセージ「生きる」も、人形と俳優たちによって、涙と共に確実に届いたように思います。
Report318【俳優さんもみえる人形劇】 田本莞奈
1948年夏の広島を舞台に作られた「父と暮せば」。俳優さん4人が、人形を動かしたり、セリフを言ったりしました。
開演前、会場では、虫の鳴き声がしていました。俳優さんが、人形を動かしたり、セリフを言ったりしているところもみることができ、俳優さんのひょうじょうがかわっていることもわかりました。「父と暮せば」は、父の竹造さんやむすめの美津江さんもでてきます。いちばんはじめのセリフは「おとったん、こわーい!」。美津江さんのセリフです。そして「おとったん、ありがとありました。」という美津江さんのセリフでおわりです。
私は、戦争がとてもこわいと思いました。たくさんの方がかなしんで、つらいおもいをして、たいへんだったと思います。「父と暮せば」をみて、私は、こわいと思いました。戦争は、もうおこってほしくないです。