レポート
【FORUM PRESSレポーター】シネマ歌舞伎「女殺油地獄」
「FORUM PRESSレポーター」による「わたしレポート」。
市民ボランティアが、かすがい市民文化財団のアレコレを紹介します。
今回は、2021年8月26日(木)に開催された
シネマ歌舞伎「女殺油地獄」をレポート!
Report429 【なぜ闇に光が灯らなかったのか?】川島寿美枝
コロナの影響で、松竹大歌舞伎が2年連続中止になりましたが、今年は映画で歌舞伎を楽しむ事ができました。近松門左衛門の人形浄瑠璃が、歌舞伎として脚色された『女殺油地獄』です。
油問屋「河内屋」の跡取り息子与兵衛は、母親が番頭徳兵衛と再婚した事からすさんだ生活に落ちていきます。舞台と違い、映画は顔の表情が大きく映し出され、与兵衛を演じる松本幸四郎のやんちゃな仕種に憎めない愛しさを感じさせます。そんな彼を、市川猿之助が演じる同業「豊嶋屋」の女房、お吉が口喧しくも優しく見守ります。
追いつめられた与兵衛がお吉を殺めようとするラストシーン。不気味に油が漏れる音。身を守ろうと全ての燭台の火を消すお吉。全身油まみれの二人の顔が暗闇の中、青白く凄惨に浮かび上がります。二人の熱演に合わせるように恐ろしく、悲し気な三味線の音が響き渡ります。
与兵衛の心の闇は現代にも通じるものがあり、見終わった後は腕が粟立ちました。
Report430【初めてのシネマ歌舞伎】前田高秀
DVD、テレビ等で映像化された舞台はいくつか観てきましたが、シネマ歌舞伎はひと味違いました。
まずは音。客席の拍手、掛け声、浄瑠璃がとてもリアルでした。役者の口跡(台詞)も生の舞台よりよく分かり、油の滴たる音まで聞こえたのもシネマならではと感じました。
圧巻は幸四郎の所作と顔芸。江戸時代、油屋の放蕩息子である主人公が借金に困り両親や妹、幼馴染を困らせます。嘘をついたり、泣きおとしにかけたり、暴力を奮ったり。果ては幼馴染でもある人妻(同業者)を殺してしまいます。お気楽、甘え、不貞腐れ、強がり、恐れ等の表情。油にまみれながら人妻を殺めるクライマックスの狂気!それらの所作と顔芸が、ここでもシネマならではの絶妙なカメラワークで展開されます。幸四郎の好演もあり、思わず身体を硬くして観入ってしまいました。
シネマ歌舞伎に触れてから観る舞台公演には、新しい魅力があるのでは―。そんな期待を抱かせてくれました。