あの人と、春日井と
現代美術作家|本山ゆかり 2021.1
目の前の課題に一つ一つ向き合ってきたら、今、ここにいた。
絵を描くのが好き。
でも、その〝好き〟って一体、何だろう?
少年ジャンプをむさぼるように読んだ小学生時代、漫画やアニメに興味を持ち、中学時代は美術部で絵を描くことに熱中したという、本山さん。「これから私、どうするんだろ?」そんな、もわんとした時期に、高校で美術科に進学するという道があることを教えてもらった。目標が明確になったことで、急にやる気がみなぎった。しかし、それは悪戦苦闘の始まりだった。
「絵を描くってどういうこと? 物を見るってどういうこと? ただ単に目の前のものを綺麗に描くだけが絵ではない。デッサン力が無くても、面白い絵は描けるのでは?」美大予備校の先生から言われたことにショックを受けた。「私がこれまで描いてきた絵は、ただの綺麗な絵だった。どうすればいいんだろう?」
東京藝大の受験では、黒い布を被った石膏像がモチーフだった。「何を描いていいのか、わからなかった。面白くないものから面白いものを見つけるのって、めちゃ難しいじゃないですか」。結局、描きあげることができなかった。
実家から通える愛知県芸に進学、アニメのセル画のような感覚で、透明のアクリル板にキャラ絵を描く日々が続いた。アート作品として購入してもらえる機会もあったが、可愛い女の子の絵はただの消費対象になりやすいことに気付き、絵が描けなくなった。「絵を毎日描かなければ死んじゃう! みたいな感じはなくて、むしろそうじゃないことがコンプレックスだったんです。でも、ずっと絵を描いてきたのに、やめるの、悔しいじゃないですか」
〝美しい〟の範囲は、とっても広い
4月に地元・春日井で展覧会を開く。見に来る方は「これって絵なの?」と戸惑われるかもしれない。本山さんの絵は、ロープや布を使ったり、白と黒のアクリル絵の具でドローイングした透明なアクリル板など、みんなが〝絵〟だと認識しているものからは、程遠いからだ。
「簡単に〝絵〟というけれど、絵にはたくさんの構成要素がありますよね。何を描くのか、何に描くのか、どの色を使うのか、どんなもので描くのか、表は? 裏は?…。それらを選択する自信が、私には無いんです。手で描くことさえ、躊躇します」
そんな風に〝絵〟と真摯に対峙してきた。中でも、最難関ポイントは色を決めることだという。
「絵具を混ぜると、色は無限です。しかし、絵具という既製品を作っている人がいて、その人たちはこの色が最高! と思って作っていらっしゃるはず。だから、私はその色を改めて選び直し、色に触れることから始めたいと思っていて」
「布も同じなんです。最高の布を引き継いで、最高の組み合わせで作品作ります! というつもり。布を縫うと凹凸ができるから、影ができるじゃないですか。その陰影は、絵の線に通じるところがあると思って」。本山さんがミシンを用いて縫った線には、花やナイフなどのモチーフが浮かび上がる。それは、いわゆる絵とは程遠いかもしれないが、やはり絵でもあるのだ。
そんな本山さんにとっての美しさとは?「万物に美しさを見出すことってできますよね。視覚に頼らない美しさもある。私は作品制作を通して、人はそこに何を観るのか?という訓練を行っているように思います」。目の前のものと格闘してきた、本山さんならではのリアルな言葉がここにあった。
本山ゆかりMotoyama Yukari
1992年生まれ、愛知県春日井市出身。2017年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。絵を構成する要素を分解しながら、絵をつくる/鑑賞するときに起きるひとつひとつの出来事を見つめる作業をしている。主な個展に「その出入り口(穴や崖)」(Yutaka Kikutake Gallery/2019) 、主な展覧会に「2020 年度第 3 期コレクション展」(愛知県美術館/2020)「この現実のむこうにHere and beyond」(国際芸術センター青森/2017)「裏声で歌へ」(小山市立車屋美術館/2017)がある。
本山さん 個展のお知らせ
2021年4月23日(金)~5月16日(日)
コインはふたつあるから鳴る @文化フォーラム春日井 入場無料