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あの人と、春日井と

歌人|鈴掛 真 2021.7

今、抱いている感情や思考を大切にした方がいい。
人は変わっていくから。

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コロナ禍での変化とささやかな喜び

「ステイホームの時間が増えたので、YouTubeチャンネルに短歌やLGBTについての動画を増やし、『気軽にコメントしてね』と声掛けしたら、登録者数が明らかに増えました」と鈴掛さん。YouTubeやSNSで読者とのコミュニケーションの間口が広がった。「『家族にカミングアウトしたいけど、親とコミュニケーションが上手く取れない』『同性に恋心を抱いてしまったけど、この先どうしたらいいか』など、誰にも言えず、一人では見当すらつけられないという悩み相談がたくさん寄せられるようになりました」。「答えるのは難しいけど、複数の選択肢を提示して、自分で答えを探してもらうようにしてます。感謝の返事を頂くことも多いです」とコミュニケーションツールの新たな広がりを実感している。
そして、作風にもバリエーションが生まれた。

人として ちゃんと生きてる はずなのに
フローリングの 埃は積もる

「僕の歌って、ここ10年以上、基本的に他者がいたんです。他者がいないと、自分にも興味が向かなくて。でも、この歌には他者がいない。コロナ禍の影響で、見てる世界がどんどんミニマムになって、自己を見つめる解像度が上がってるのかも。こういうのも書けるようになったんだ、ってちょっと嬉しくなりました」

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短歌を書くことは、自らを鏡で見ること

短歌と出合ったのは大学4年生。天野慶さんの歌集を読んで衝撃を受けた。それから約2年間、日に三十首ほどを書き留めた。「楽しかったから」と振り返るが、「上手くなるには書くしかない」とも。「文章を書くのが苦手な人は、とにかくたくさん書いてみましょう。書けば必ず上手くなります」と反復の大切さも呼びかける。文章を人から褒められて「書ける」と気づけたのも学生時代だった。「褒められると自信がつく。ノートに書き溜めるだけじゃなく、どんどん人に読んでもらうことが大切だと思います」
「短歌を書くのって、鏡を見ることと似ています。ふだん、鏡がないとそんなに意識しないでしょ、自分の顔とか背格好とか。自分のことって実はよく分かってない。書くことで、気持ちと向き合い、漫然としていた感情が整理されて自分を客観視できるんですよ」

若い人には、コロナ禍の今だからこその感情や考えを大切にしてほしいという。「友人に会えなくなったり、行事が中止になったり、きっといろんなストレスを抱えていると思います。その『どうしようもない』感情を言葉で書けるのも、今ならでは。10代の揺らいだ気持ちをそのまま詠んで、ネガティブな感情やカッコよくない自分が出てきたとしても、他者が見たら美しく映ることだってある。共感を呼ぶこともあると思うんです」
そして、言葉で表現することは成長につながると話す。「考えを表明すると、それに対する肯定があり、時には反発もある。周りからのリアクションを受け入れて変わろうとすることで、人格ができたり、意識が形成されていくんです」

鈴掛さんは、常に自分を見つめ続けながら、自戒の念を抱いている。だからこそ、自身の短歌にも新たな一面が芽生えた。「今まで信じてきたことが間違ってた可能性もあるし、無意識の言動で他者の尊厳を傷つけることもあるかもしれない。だから、社会の変化を注視して、いつでも価値観をアップデートしようと思ってます」。そのたたずまいには、一所にとどまらない清流のような新鮮さと、しなやかな力強さが共存している。

鈴掛 真Suzukake Shin

愛知県春日井市出身。東京都在住。ワタナベエンターテインメント所属。名古屋学芸大学メディア造形学部卒業。短歌結社「短歌人」所属。第17回 髙瀬賞受賞。広告会社でコピーライターを3年間経験後、作家業に専念。著書に、歌集『愛を歌え』(青土社)、エッセイ集『ゲイだけど質問ある?』(講談社)、フォトエッセイ『好きと言えたらよかったのに。』(大和出版)がある。


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第41回春日井市短詩型文学祭 作品募集
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