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特集

演劇×自分史プロジェクト『春よ恋』特集|2020.2.27 あの日から テキスト=有門正太郎(俳優・演出家)2021.1

コロナ禍の中、演劇をどう上演するか―。
苦悩の日々を演出家が語ります。

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コロナ禍で公演延期を繰り返してきた「演劇×自分史プロジェクト『春よ恋』」。一般公募による25名の出演者の密を回避した稽古を始め、安全に、楽しく演劇公演を実現する方法はないか―。出演者、スタッフ総出で模索が続いています。
演出家としてメンバーをまとめ、作品を作り上げてきた有門さん。今の気持ち、教えてください。

昨年2月末、舞台『春よ恋』出演の老若男女は、舞台の大きさ、客席の多さに圧倒されながらも、各々が負けじと本番に挑もうとしていた。ところが本番2日前、コロナで公演が1か月、延期となった。あの瞬間、どこか他人事のような気持ちだった事をはっきりと覚えている。「悲しい、悔しい」よりも、「仕方ない、せめて延期で助かった」といった感じだ。台本は書き終え、演出もほぼ終わり、後は演者のモチベーションをどう上げるかという段階だった。「セリフや動きを覚えておいて。また1か月後に集まろう」。別れる時、出演者たちのメンタルが何よりの気がかりだった。
そこからは、ご承知の通り。延期となった公演は、1年後に再延期となった。
6月。メンバーに、こんなメッセージを送った。「再会の折には、日々の変化でも、心情の変化でもいい。大変な時期をどう過ごしていたか、教えてください」。『春よ恋』は、『演劇×自分史プロジェクト』としてはじまった。自分史というだけあって、延期公演ではコロナ禍のことや、メンバーの心境の変化も作品に組み込もうと、この時、漠然と考えていた。
そして秋の終わり。いよいよ『春よ恋』の稽古再開が迫る中、かすがい市民文化財団から連絡がきた。当初のように、全員が舞台にあがる形での上演は厳しい―。東海地方ではコロナ感染者の増加が止まらず、稽古による感染リスクも鑑み、総合的な判断との事だった。
真っ先に思い浮かんだのは、みんなにこの現実をどう伝えようかという事。1ヶ月、1年と延期を繰り返す中、気持ちだけをずっと作品に残したままの出演者たち。このままでは「やるやる詐欺」だ。けれど、これが現実。実は数名から出演辞退の連絡も来ていた。大学を辞め就職した方、年齢的に辞退する方など理由は様々だ。
とにかく、一度集まって、みんなの顔を見て、今の状況をしっかり話すしかない。
11月。2日に分けて、メンバーと集まる機会を得た。久しぶりの再会は、不思議な距離感があった。例えるなら、正月の親戚の集まり。少し話すだけで、すぐあの頃の距離感に戻る。止まっていた時計が、少しだけ動いた気がした。
この時、コロナ禍をどう過ごしていたのかを全員に尋ねた。それぞれの半年が興味深く、あっという間に時間が過ぎた。そして最後に、延期前と同じ環境では『春よ恋』を上演できない事、そして「今やれるベストな形で『春よ恋』を昇華させたい」という思いを伝えた。微妙な空気と、何とも言えないみんなの表情が印象的だった。不謹慎かもしれないが、みんないい顔をしていた。
ふと、ある出演者から教わった「人生は、死ぬ時までの暇つぶし」という言葉が浮かんだ。まだまだ壮大な暇つぶしが続きそうだ。

演劇×自分史プロジェクト『春よ恋』

リハーサルで撮った映像を駆使するなど、発表の道を模索。
公文協シアターアーカイブスにて配信を行う。